NAGANOKEN-KOGEIKAI
県民芸術祭2013参加
第33回 長野県工芸展
松本市美術松本市美術館 市民ギャラリーA・B館
平成25年10月2日(水)~10月6日(日)
午前9時~午後5時 (最終日は午後4時終了)
主 催/ 長野県工芸会・ SBC信越放送
共 催/ 長野県・ 長野県教育委員会・ 長野県芸術文化協会
後 援/ 松本市・ 松本市教育委員会・ 信濃毎日新聞社 市民タイムス
審査 委員 榎 本 徹 (岐阜県現代陶芸美術館 館長) 田 中 晴 久 (東京都目黒区美術館 館長) 外 舘 和 子 (工芸評論家、愛知県立芸術大学非常勤講師) 横 山 勝 彦 (長野県信濃美術館 副館長) 小 出 文 生 (長野県工芸会 会長) (敬称略・順不同) 審 査 講 評 審査委員長 外 舘 和 子 今回は127点の応募があり、92点が入選した。 昨年より応募総数10点減ではあるが、陶芸や人形など裾野の広いジャンルは応募数も多く、また2点出品も少なからずあり、意欲が感じられる。特にキャリアのある作り手が、新たな試みに挑んでいる様子が頼もしい。惰性やマンネリを作り手自身が避けるべく努める姿勢は、長野県工芸展の誇るべき長所である。 最高賞の長野県工芸会長賞に選ばれた作品は、世界観が明確で技術的に微塵の破たんもない。組物が最高賞に選ばれることの珍しさ以前に、間近で見られることを前提とする「工芸」の基本を押さえていること、これは、惜しくも選外となった人たちが特に学ぶべき点でもあろう。 また、応募数は少ないながら染織の水準は高く、着物のほか、新鮮なろう染めのパネル作品が入賞した。さらに諸工芸からも七宝が確かな技術とセンスで入賞、受賞作の幅を確保している。 一方、人形が応募数の割に、受賞に至らなかったのは、細部の粗さのためである。例えば眼を描くその一本の線も大切に。 思い付きだけでは実現しえない、必ずや修錬を要する「工芸」ならではのハードルに、くじけることなく立ち向かっていただきたい。 継続は力なり、とは工芸のための言葉である。 第33回 長野県工芸展 入賞作品 長野県工芸会長賞 組鉢「一時の涼」 岸田 怜 陶芸 長野県知事賞 氷 海 佐藤亜都子 染織 SBC信越放送賞 有線七宝蓋物「茶花」 小口好子 諸工芸 長野県教育委員会賞 まちぼうけ 大森國子 陶芸 信濃毎日新聞社賞 草木染「裏通りの詩」 木村不二雄 染織 北澤美術館賞 冬虫夏草のすすめ 西澤伊智朗 陶芸 長野県工芸会長賞 組鉢「一時の涼」(陶芸) 岸田 怜 (長野市) 呉須を利かせてさらりと描かれた朝顔の花やつぼみ、蔓の伸びやかな曲線が、白い磁胎に爽やかな空間を生み、まさに「一時の涼」を呼ぶ。 鉢の文様内容は一点ごとに異なり、五組並ぶことで空間はさらに広がりと変化を示している。しかし、五組の鉢に共通するのは、その端正なかたちである。 小さな高台から五か所に稜線を取った口縁へ向かって自然に拡がる鉢は、実はフォルムそのものが朝顔の花なのだ。 技術的な完成度の高さもまた、その作品世界をしっかりと伝えるにふさわしい。 (外舘和子) 長野県知事賞 氷 海 (染織) 佐藤亜都子 (安曇野市) 白い絽の生地に下から上への青の濃淡だけで模様を染めつけたこの作品は、複雑であると同時に明快な単純さを感じさせる。 作者によれは、厳冬期のオホーツクの情景に取材し、藍色が映える模様を考えたという。作者は、空と海の青というテーマを充分に消化して制作に入ったに違いない。 優れたデザイン感覚が生きているこの作品は、まさに涼やかな印象を与える。 (横山勝彦) SBC信越放送賞 有線七宝蓋物「茶花」(諸工芸) 小口好子 (茅ヶ崎市) 渋く深い緑地に白いお茶の花が散りばめられている。 白い可愛い花は決して華やかではないが、生き生きと、またあでやかな印象も与える。 有線七宝という難しい技術を駆使し、温かみのあるを実現した作者の力量は明らかである。何よりも少し大きめの器全体を統御した作者のデザイン感覚が優れている。 (横山勝彦) 長野県教育委員会賞 まちぼうけ(陶芸) 大森國子 (長野市) この作品の魅力は何といってもその色合いである。 派手な色はないが、天然の優しい色をうまく組み合わせ、 シックで洒落たものになっている。 色面の比率や形も妥当なものである。形態も整理はされているが、下部が少し重たくなりすぎてシャープさがなく、もうひと工夫の余地があると思われる。 (田中晴久) 信濃毎日新聞社賞 草木染「裏通りの詩」(染織) 木村不二雄 (須坂市) ろうけつ染めの技法で、天然染料を使用した絵画的な作品である。 天然染料によって、落ち着いた柔らかな空気感が画面全体に漂っている。 描かれているのは、街中の懐かしさの感じられる情景であり、描写は丁寧で達者である。下部の女の子の白抜きは、少々違和感を感じさせるが、大型の画面を破たんなくまとめた技量は評価される。 (田中晴久) 北澤美術館賞 冬虫夏草のすすめ(陶芸) 西澤伊知朗 (長野市) 堅牢な五本の膨らみが、底から上へ、やや捩じれるように立ち上がり、上部で閉じる。どっしりとした存在感の中にも、有機物らしき動勢を示している。 「冬虫夏草」は、幼虫などに寄生して成長する菌。寄生した菌が成長する一方、寄生された側は徐々に死に至る。 しかし、それを説明的に表現するのではなく、時間の経過とともに変化していく生命のありようを、陶ならではの肌合いや構造によって築きあげているところに、この作品の見どころがある。 (外舘和子) ページトップへ戻る
審査 委員
榎 本 徹 (岐阜県現代陶芸美術館 館長)
田 中 晴 久 (東京都目黒区美術館 館長)
外 舘 和 子 (工芸評論家、愛知県立芸術大学非常勤講師)
横 山 勝 彦 (長野県信濃美術館 副館長)
小 出 文 生 (長野県工芸会 会長)
(敬称略・順不同)
審 査 講 評
審査委員長 外 舘 和 子
今回は127点の応募があり、92点が入選した。 昨年より応募総数10点減ではあるが、陶芸や人形など裾野の広いジャンルは応募数も多く、また2点出品も少なからずあり、意欲が感じられる。特にキャリアのある作り手が、新たな試みに挑んでいる様子が頼もしい。惰性やマンネリを作り手自身が避けるべく努める姿勢は、長野県工芸展の誇るべき長所である。 最高賞の長野県工芸会長賞に選ばれた作品は、世界観が明確で技術的に微塵の破たんもない。組物が最高賞に選ばれることの珍しさ以前に、間近で見られることを前提とする「工芸」の基本を押さえていること、これは、惜しくも選外となった人たちが特に学ぶべき点でもあろう。 また、応募数は少ないながら染織の水準は高く、着物のほか、新鮮なろう染めのパネル作品が入賞した。さらに諸工芸からも七宝が確かな技術とセンスで入賞、受賞作の幅を確保している。 一方、人形が応募数の割に、受賞に至らなかったのは、細部の粗さのためである。例えば眼を描くその一本の線も大切に。 思い付きだけでは実現しえない、必ずや修錬を要する「工芸」ならではのハードルに、くじけることなく立ち向かっていただきたい。
継続は力なり、とは工芸のための言葉である。
第33回 長野県工芸展 入賞作品
長野県工芸会長賞
長野県知事賞
SBC信越放送賞
長野県教育委員会賞
信濃毎日新聞社賞
組鉢「一時の涼」(陶芸)
岸田 怜 (長野市)
呉須を利かせてさらりと描かれた朝顔の花やつぼみ、蔓の伸びやかな曲線が、白い磁胎に爽やかな空間を生み、まさに「一時の涼」を呼ぶ。
鉢の文様内容は一点ごとに異なり、五組並ぶことで空間はさらに広がりと変化を示している。しかし、五組の鉢に共通するのは、その端正なかたちである。 小さな高台から五か所に稜線を取った口縁へ向かって自然に拡がる鉢は、実はフォルムそのものが朝顔の花なのだ。 技術的な完成度の高さもまた、その作品世界をしっかりと伝えるにふさわしい。
(外舘和子)
氷 海 (染織)
佐藤亜都子 (安曇野市)
白い絽の生地に下から上への青の濃淡だけで模様を染めつけたこの作品は、複雑であると同時に明快な単純さを感じさせる。 作者によれは、厳冬期のオホーツクの情景に取材し、藍色が映える模様を考えたという。作者は、空と海の青というテーマを充分に消化して制作に入ったに違いない。
優れたデザイン感覚が生きているこの作品は、まさに涼やかな印象を与える。
(横山勝彦)
有線七宝蓋物「茶花」(諸工芸)
小口好子 (茅ヶ崎市)
渋く深い緑地に白いお茶の花が散りばめられている。 白い可愛い花は決して華やかではないが、生き生きと、またあでやかな印象も与える。
有線七宝という難しい技術を駆使し、温かみのあるを実現した作者の力量は明らかである。何よりも少し大きめの器全体を統御した作者のデザイン感覚が優れている。
まちぼうけ(陶芸)
大森國子 (長野市)
この作品の魅力は何といってもその色合いである。 派手な色はないが、天然の優しい色をうまく組み合わせ、 シックで洒落たものになっている。
色面の比率や形も妥当なものである。形態も整理はされているが、下部が少し重たくなりすぎてシャープさがなく、もうひと工夫の余地があると思われる。
(田中晴久)
草木染「裏通りの詩」(染織)
木村不二雄 (須坂市)
北澤美術館賞
冬虫夏草のすすめ(陶芸)
西澤伊知朗 (長野市)
「冬虫夏草」は、幼虫などに寄生して成長する菌。寄生した菌が成長する一方、寄生された側は徐々に死に至る。
しかし、それを説明的に表現するのではなく、時間の経過とともに変化していく生命のありようを、陶ならではの肌合いや構造によって築きあげているところに、この作品の見どころがある。
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入選者一覧
会員…長野県工芸会会員
北澤美術館「長野県工芸展秀作展」
2013年 10月 7日(月)~10月20日(日)
「第33回記念長野県工芸展」入選作品の中から、
入賞作品およびそれに準ずる作品を審査委員により選抜展示。
選抜作品