審 査 講 評
審査委員長 鈴木 潔 (滋賀県長浜市 黒壁美術館館長)
今回は30回記念展ということで例年よりも多い178点の応募があり、初めて応募された方も目立った。
長野県工芸会が役員、会員、一般の区別なく公平に審査を行い、信州ゆかりの工芸家に広く門戸を開放している姿勢が高く評価された結果なのあろう。
30年の節目を迎えた工芸会の、これまでの活動が着実に成果を上げていることは慶賀に堪えない。
例年同様、陶芸部門の出品数が過半を超えた。それらの中には、陶芸教室に通い、作陶を始めて間もないと思われる作品も少なくなかった。
審査員の間では初出品ゆえ工芸会の水準をよく知らずに応募された方々に配慮し、対プロ作家と同等の審査基準を適用せず、初心者枠を設定して、初応募の1回に限り入選を認めたらどうかという意見もあった。
いうまでもなく今後の創作活動の励みになるようにという配慮である。
しかし、全ての出品者が(会長、元会長などの幹部作家であっても)公平に審査を受ける長野県工芸会のよき伝統に反するという意見もあって、初心者の手になると思われる作品であってもベテラン作家と同様の基準で審査を受けていただくこととなった。
その結果、応募総数178点の27パーセント近い48点が落選となった。
落選作の多くは、造形に必然性が感じられず、迷いや安易さがその形に滲み出ているものが多かったようである。入選が叶わなかった出品者の方々には、自作と入選作との質の相違が意味するところを見つめていただき、今後の参考にしていただければ幸いである。
入選を果たした作品にもばらつきがあるのは当然であるが、技術的な洗練とより一層の完成度の高みを目指し日々精進されている姿勢を感じさせてくれる作家が多いのは長野県工芸会の美点といえよう。
今回も従前とは全く異なる作風による新作を応募し、審査員をうならせた会員が複数おられたのは心強い限りである。
私は長野県工芸会の審査を引き受けて20年の歳月が経ったが、毎回出品される作品を見るにつけて、泥臭い大地の香りや朴訥な県民性が、いつも多くの作品に反映されているように感じている。
それが長野県らしさというのであるならば、いたずらに斬新さを追い求めず、保守的であっても着実に地に足がついた活動を続けておられる姿は、信州人の矜持というものなのであろう。
他県の工芸作家との違いを、むしろ誇りに思うこの頃である。